7月20日過ぎに、定期購読している新聞の集金人が来た。この人は朝刊の配達人でもあって、我が家がここに家を建てて以来の付き合いである。

 「いつもより集金時期が早まってすみません」が今回の最初の挨拶だった。数か月前に配達所の経営者が変わり、 いろいろ様子が違ってきたと、先月聞いたばかりだった。早い集金はあまり気にもならなかったけど「何かと大変ですか」と話を合わしたら、「今月でこの仕事をやめることにしました」と返ってきたので驚いて子細を訪ねた。

 白内障の手術のため少しの休みを申し出たら、「うちもいっぱいいっぱいの人数でやっているのだから」と休みを取ることを断られたので、思い切って退職を申し出たという。長い間務めてきたのにねえ、と私は功労者に対する情の薄い待遇を非難して見せた。はっきりそうは言わなかったけれど、今までの付き合いの長い経営者ならば少しは扱いも違ったのではないかと思ったのだ。「まあもう**歳だから」と彼は私より二つ三つ上の歳を言った。まだ働けるという思いとそろそろ潮時だったという気分とをにじませていた。

 「長い間お世話になりました」と挨拶したら、「ええ、ああ」と応じ

何度か頭を下げ玄関のドアを閉じて彼は出て行った。

 居間に戻って妻に「新聞屋さんが辞めるってよ」というと、時には彼女が応対して世間話をいろいろ話し込んだりしていたので、「まあ」と彼女も少し感慨を示した。

 30年以上のつき合いだからねえとどちらかが言って、私たち夫婦は年寄り二人の日常に戻っていった。